資金調達・投資環境

資金調達・投資環境

次世代地熱の経済性

SHARE

EGS、クローズドループ、超臨界地熱が拓く24/7カーボンフリー電力

地熱発電はいま、「天然の熱水貯留層を探し当てる資源開発」から、「地下に熱交換システムを設計・製造するエネルギーインフラ」へ移行しつつある。強化地熱システム(EGS)、人工亀裂に依存しないクローズドループ、375℃超の領域を狙う超臨界・超高温地熱は、開発可能地域と坑井当たり出力を大きく広げる可能性を持つ。

ただし、これらを従来型地熱と同じ「成熟した再生可能エネルギー」として扱うべきではない。地上のタービンや発電サイクルには成熟技術を利用できる一方、深部水平掘削、人工貯留層、長大な密閉坑井、超高温材料、リアルタイム地下計測は商用化初期にある。技術成熟度を一括評価すれば、初号機リスクが事業者の価格と資本コストへ集中し、案件形成を阻害する。

本稿は、次世代地熱を三つの層で評価する。第一は、坑井当たりネット出力、設備利用率、運転寿命がLCOEをどう変えるか。第二は、地下リスクを契約と金融でどう分解し、WACCを下げるか。第三は、容量価値、時間帯別のエネルギー価値、柔軟性価値を含むVALCOEと総合システムコストで、他電源とどう比較するかである。核心はCAPEXの絶対額ではなく、同じ坑井群から得る生涯発電量と系統価値を最大化することにある。

太陽光・風力は新設電源の発電端コストで優位に立つが、供給時刻を選べない。原子力は低炭素の安定電源だが、社会受容性、長期建設のリスクを持つ。LNG火力は柔軟だが、燃料輸入、価格変動、炭素制約に曝される。地熱は、燃料費がなく、年間を通じて高稼働し、比較的小さな単位で段階増設できる「クリーン・ファーム電源」として、その中間を埋める可能性がある。

CAPEX低減だけではない――出力密度が変える経済性

次世代地熱は初期投資先行型であり、掘削・仕上げ費が重い。しかし、投資判断で見るべき分数は「CAPEX÷設備容量」だけではなく、「ライフサイクル総費用÷ライフサイクル売電量」である。掘削費が高止まりしても、坑井当たりネット出力、設備利用率、運転年数を引き上げれば、固定費をより多くの電力量で回収できる。逆に、安価な坑井でも流量不足、循環動力増大、急速な熱減衰があれば経済性は成立しない。

EGSの成否を左右する変数は、掘削日数と同時に「岩体から何MWhを何年間取り出せるか」である。水平区間の延伸、坑径拡大、刺激段数の最適化、流量増加、熱短絡の抑制により、坑井当たり発電容量が倍増すれば、掘削費が横ばいでもkW当たりCAPEXとMWh当たり固定費は低下する。Fervo Energyが示した70日から21日への掘削短縮と坑井費低減は重要だが、次の競争軸は高出力井の再現性と長期性能である。

クローズドループは、人工貯留層造成や流体損失のリスクを抑えやすい反面、熱伝導律速になりやすい。したがって、長大水平井やマルチラテラルによる接触面積、作動流体、断熱、ポンプ効率、地上サイクルを一体最適化し、ネット出力を高める必要がある。坑井構造を標準化し、同一パッドで反復施工できれば、出力の予測可能性と建設学習の両面で資金調達コストを下げられる。

超臨界・超高温地熱では、深部掘削と耐熱材料により絶対額のCAPEXは上昇し得る。それでも高エンタルピー流体によって少数坑井から大出力を得られれば、発電所容量当たりの坑井数、敷地、配管、地上設備を圧縮できる。経済性の焦点は最安の坑井ではなく、坑井一本の「ライフサイクル発電価値」である。ただし、高温環境での坑井健全性、腐食、スケール、改修頻度を含む評価が不可欠となる。

他電源との比較――LCOEからVALCOE・総合システムコストへ

LCOEは発電所内の平均費用を示すが、「いつ、どれだけ確実に発電するか」を表さない。IEAが提唱するVALCOEは、LCOEにエネルギー価値、容量価値、柔軟性価値を組み込み、系統にとっての競争力を比較する指標である。地熱は発電端LCOEで太陽光・陸上風力に劣る場合でも、高い設備利用率、予測可能性、連続運転、出力調整能力によって価値差を縮め、系統条件によっては逆転し得る。

Lazardが提示しているLCOE+も、変動電源の比率が高まるほどファーミング費用と確実な容量の価値が上昇すると指摘する。太陽光・風力の低いRaw LCOEは重要だが、24/7供給には過積載、短時間・長時間蓄電、送電網、需給調整、バックアップが必要である。総合システムコストでは、これらの追加費用と出力抑制を同じ境界条件で計上しなければならない。

国際機関のLCOE比較――前提をそろえて読む

国際機関の公表値は、対象年、既設・新設、割引率、燃料・炭素価格、設備利用率が異なるため、前提を確認せずに順位だけを比較してはならない。IRENAの2025年運開案件の世界加重平均LCOEは、陸上風力33米ドル/MWh、太陽光44米ドル/MWh、水力62米ドル/MWh、洋上風力78米ドル/MWh、バイオエネルギー86米ドル/MWh、地熱89米ドル/MWh、CSP115米ドル/MWhである。これは実績案件に基づく再生可能電源間の比較であり、原子力やガス火力を同じ条件で直接比較した値ではない。

IEA/OECD NEAの2020年版は、24か国243プラントについて2025年運開を想定し、実質割引率7%、炭素価格30米ドル/tCO₂を主要ケースとして、原子力、火力、再生可能電源を共通手法で比較した。太陽光・風力は多くの地域で化石燃料と競争可能となり、新設原子力は低炭素の調整可能電源として競争力を持ち、既設原子力の長期運転は低炭素電源の中で最安とされた。ただし、これも発電所境界のLCOEであり、変動電源の統合費用や容量価値はVALCOEで補う必要がある。

電源LCOE(米ドル/MWh)基準比較上の意味
陸上風力33IRENA、2025年運開新設再エネで最低水準
太陽光44IRENA、2025年運開低廉だが時間価値は別評価
水力62IRENA、2025年運開適地・案件差が大きい
洋上風力78IRENA、2025年運開資本費と系統接続に敏感
バイオエネルギー86IRENA、2025年運開燃料条件に左右される
従来型地熱89IRENA、2025年運開高稼働の調整可能電源
CSP115IRENA、2025年運開蓄熱の価値はLCOE外

次世代地熱のLCOE試算――既往研究はあるが、実績値ではない

次世代地熱にもLCOE試算は存在する。ただし、その多くは商用実績の平均ではなく、技術学習、掘削費、坑井出力、設備利用率、WACCを仮定した将来シナリオである。IEA『The Future of Geothermal Energy』(2024年)は、次世代地熱の初号機を約230米ドル/MWhと置き、技術学習と資本費低下が進む場合、2035年に約50米ドル/MWh、2050年に約30米ドル/MWhへ低下し得ると試算した。2035年の比較では、設備利用率80%、WACC7%を前提としている。

米国DOEの2024年Commercial Liftoff分析は、EGSの全国平均LCOEが2030年に60~70米ドル/MWhへ低下し得るとし、Enhanced Geothermal Shotは2035年45米ドル/MWhを研究開発目標に掲げる。したがって、現状比較にはIRENAの従来型地熱89米ドル/MWhを用い、次世代地熱はFOAK約230米ドル/MWhから2030年代の45~70米ドル/MWhを目指す将来レンジとして別枠で扱うべきである。クローズドループと超臨界・超高温地熱は商用実績がさらに限られるため、単一値ではなく、深度、温度、坑井当たりネット出力、追加井、熱減衰、WACCを明記した感度分析が不可欠となる。

試算主体対象LCOE・目標位置付け
IEA(2024)次世代地熱FOAK約230、2035年約50、2050年約30米ドル/MWhシナリオ試算。2035年比較は設備利用率80%、WACC7%
米国DOE(2024)EGS中心2030年60~70米ドル/MWh商用立上げ条件を置いた全国平均の将来推計
米国DOE Geothermal ShotEGS2035年45米ドル/MWh政策・研究開発目標であり実績値ではない

以上から、次世代地熱は太陽光・風力の代替ではなく、変動電源を支える補完電源として評価すべきである。太陽光・風力の導入を拡大しつつ、残余需要を地熱、水力、原子力、蓄電、需要応答で満たすポートフォリオは、単一電源への依存より総費用と供給リスクを抑えやすい。とりわけ燃料輸入国の日本では、地熱は燃料・為替・炭素価格への長期ヘッジとして価値を持つ。

したがって評価実務では、①発電端LCOE、②容量・時間・柔軟性価値を反映したVALCOE、③送電・蓄電・バックアップを含むシステムコスト、④燃料・炭素価格のストレスケース、⑤土地・水・地域影響を並列表示する必要がある。次世代地熱の比較優位は、単価表の一点ではなく、20~30年にわたり確実な低炭素電力を供給する保険価値に現れる。

市場制度――FIT・FIP単価論を超え、初号機市場を設計する

米国の示唆:ネバダ州ではGoogle、NV Energy、Fervo EnergyによるClean Transition Tariff(CTT)が承認され、115MWの24時間型EGSを導入する枠組みが作られた。大口需要家が新技術のプレミアムを負担し、規制公益事業者が長期契約と系統統合を担い、一般需要家へ初号機コストを転嫁しない。これは単なる企業PPAではなく、需要家の支払意思を電源計画へ統合する規制料金モデルである。

日本の課題:米国のような初号機市場を日本で形成するには、まず既存のFIT・FIPが何を解決し、何を解決できないかを切り分ける必要がある。2026年度の地熱の調達価格・基準価格は、新設の場合、1,000kW未満が40円/kWh、30,000kW以上が26円/kWhであり、その間は出力に応じて価格が連続的に低下するフォーミュラ方式となった。これは従来の15,000kWを境とする価格の段差をなくし、制度上の境界を意識して設備規模を抑える誘因を弱める点で前進である。

一方、価格区分が滑らかになっても、案件の収益性が自動的に高まるわけではない。制度価格は、効率的に実施される標準的な案件の費用と適正利潤を基礎に設定されるため、長期の開発期間、調査井・失敗井、追加掘削、系統接続、地域調整、物価上昇、出力や蒸気量の下振れといった案件固有の負担を十分に回収できない場合がある。しかも、規模拡大に伴う単価低下が、追加坑井や大深度化による費用増を上回れば、中規模・大規模案件の期待収益率はむしろ圧迫される。このため、40円または26円/kWhという表面上の単価だけで採算性を判断せず、発電量、CAPEX、追加井、WACCを案件ごとに置いたキャッシュフローで検証しなければならない。

この収益性の問題は、従来型より不確実性の大きい次世代地熱でさらに深刻になる。現行のFIT・FIP価格とフォーミュラは主として従来型地熱のコスト構造を念頭に置いており、EGS、クローズドループ、超臨界・超高温地熱の初号機に固有の技術学習費、深部掘削、特殊材料、長期性能検証を十分に織り込めない。そこで商用化初期には、既存の一律価格だけで投資回収を求めるのではなく、合理的に発生した実証・建設・運転費と適正報酬を一定期間回収できる、総括原価方式に近い仕組みを併用する余地がある。ただし、無条件の費用転嫁は避け、上限額、マイルストーン、独立技術評価、情報公開、成果連動の報酬率を設けるべきである。これにより、初号機のリスクを社会的に分担しつつ、二号機以降は学習効果に応じて支援水準を下げられる。

もっとも、初号機費用のすべてを一般需要家に負わせる必要はない。ここで米国のCTTが示す需要家参加型の仕組みが参考となる。日本版CTTを、電力会社、次世代地熱事業者、データセンター・半導体工場などのアンカー需要家による三者契約として設計すれば、大口需要家は追加費用を負担する代わりに、時間一致型のカーボンフリー属性、容量、長期供給を受けられる。これにより、一般需要家を保護しながら、規制電気事業者の信用力と系統運用能力を初号機の商用化に活用できる。

こうした初号機支援は、恒久的な保護ではなく、競争化までの移行制度として設計する必要がある。第1段階では公的実証と条件付きの総括原価型回収で技術・地下リスクを検証し、第2段階ではCTT、長期PPA、債務保証によって民間資金と需要家負担へ比重を移す。反復実績が蓄積した第3段階では、競争入札、FIP、容量市場へ移行する。支援の縮小は地熱全体を一括して判断せず、方式、地質条件、反復実績ごとに行う。この順序によって、「成熟技術だから支援不要」と「永続的な高FIT」という二者択一を避けられる。

結論:次世代地熱は、電源単価ではなくシステム価値で育てる

次世代地熱の経済性は、CAPEXの絶対額だけでは決まらない。坑井当たりネット出力、設備利用率、運転寿命を高め、熱減衰と追加井を管理できれば、固定費をより多くのMWhで回収できる。さらにVALCOEで見れば、確実な容量、時間一致型の低炭素電力、燃料価格ヘッジ、送電・蓄電投資の回避が価値として加わる。

したがって日本に必要なのは、次世代地熱を既存の価格区分に押し込むことでも、恒久的な高価格で保護することでもない。初号機では公的資金、条件付き費用回収、アンカー需要家の支払意思を組み合わせて不確実性を吸収し、実績の蓄積に合わせて市場型の調達へ移すべきである。「検証、リスク低減、競争化」を一続きの制度として設計することが、EGS、クローズドループ、超臨界・超高温地熱を持続可能な商用電源へ育てる現実的な道筋となる。

参考文献

  1. International Energy Agency, The Future of Geothermal Energy, 2024.
  2. IEA, “Techno-economic inputs: Value-adjusted LCOE,” 2025.
  3. International Energy Agency and OECD Nuclear Energy Agency, Projected Costs of Generating Electricity 2020, 2020.
  4. U.S. Department of Energy, Pathways to Commercial Liftoff: Next-Generation Geothermal Power, 2024.
  5. National Laboratory of the Rockies, 2025 U.S. Geothermal Market Report, 2026.
  6. Lazard, Levelized Cost of Energy+ Version 18.0, 2025.
  7. Fervo Energy, “Drilling Results Show Rapid Advancement of Geothermal Performance,” 2024.
  8. Google, “Our first-of-its-kind partnership for clean energy has been approved in Nevada,” 2025.
  9. NEDO グリーンイノベーション基金「次世代型地熱技術の開発」2026年。
  10. 資源エネルギー庁「次世代型地熱推進官民協議会 中間取りまとめ」2025年。
  11. 経済産業省「2026年度以降のFIT・FIP制度における買取価格等」2026年。
  12. Clean Air Task Force, Gaps, Challenges, and Pathways Forward for Superhot Rock Geothermal, 2025.
  13. International Renewable Energy Agency, Renewable Power Generation Costs in 2025, 2026.

小暮 遼

ジオヴァンガード・エナジー株式会社 代表取締役

東京工業大学(現・東京科学大学)大学院技術経営専攻修了後、青年海外協力隊を経て三井物産株式会社および三菱商事株式会社にて約10年間、国内外(米欧駐在含む)で電力・エネルギー分野の事業開発やインフラ投資に従事。 その他、外資系再生可能エネルギー事業会社、インフラ投資ファンド、地熱開発ベンチャー等の経験を経て、2026年にジオヴァンガード・エナジー株式会社を創業し代表取締役に就任。 現在は地熱エネルギーを含む次世代型技術を用いたプロジェクト開発・事業オーケストレーションを牽引し、パラレルアントレプレナーとして複数の企業経営や専門インテリジェンスプラットフォームの運営を手掛ける。

無料会員登録

登録すると、できること

記事はすべて無料でお読みいただけます。
レポートのダウンロードには、無料会員登録が必要です。

  • 創刊号レポート『次世代地熱の現在地』をダウンロードできます
    (創刊記事12本を1冊に。印刷して社内の共有や説明にも)
  • 今後無料公開するレポートも、すべてダウンロードできます。
  • ニュースレターの受信をご希望いただけます
    (ニュースレターの開始時期・頻度は今後決定します)。

ご登録は、メールアドレス・お名前・会社名/機関名・国/地域とパスワードのご入力、確認メールの受け取りで完了します。

GeoVanguard Intelligence

ジオヴァンガード・エナジー株式会社が運営する、地熱エネルギー専門の日英バイリンガル・メディアです。日本の情報は日本語に閉じ、海外の情報は日本に届かない。その間をつなぐことを目的としています。