政策・規制
GHGプロトコル改訂が引き起こす「グリーン電力」の再定義:Hourly Matching、DeliverabilityとAdditionalityをめぐる議論が地熱開発にもたらす可能性
〜非化石証書・FIT/FIP電源への影響可能性と、エリア制約下における24/7CFEの戦略的価値〜
企業の再生可能電力調達を支えてきた「年間総量で帳尻を合わせる」考え方が、見直しの局面を迎えている。GHGプロトコルのScope 2公開協議案は、マーケット基準で用いる契約上の証書について、電力を使用した時間との一致を求めるHourly Matchingと、需要地点への供給可能性を問うDeliverabilityを提案した。背景には、昼間に発電された太陽光の環境価値証書で夜間の需要を相殺できる現行の年間マッチングでは、報告上の再生可能電力調達と実際の系統利用との間にずれが生じ得るという問題意識がある。ただし、これらは最終要件ではなく、2025年10月から2026年1月までの公開協議を受けて、複数の報告アプローチや実行可能性を含む検討が続いている。また、企業の調達行動が新規電源の建設や排出削減を実際にもたらしたかというAdditionalityは、主として開発中のActions and Market Instruments基準で扱われており、現時点でScope 2における証書利用の一律の適格要件として確定したものではない。今後、Hourly MatchingやDeliverabilityが最終基準に採用されれば、企業は年間の証書量だけでなく、どの時間帯に、どの地域の、どの電源の属性で需要を満たしたかを説明する必要が生じる可能性がある。これは電力調達、データ管理、契約、投資判断に広く影響し得る制度変更である。特に、需要地から離れた電源の証書や太陽光に偏った調達ポートフォリオは、適用される市場境界、供給可能性の立証方法、経過措置によって評価が変わり得る。一方、昼夜を問わず比較的安定して発電できる地熱には、時間別の需要との一致に寄与する電源として評価される余地がある。ただし、その価値は系統接続、需要地との位置関係、停止時間を含む実際の発電実績によって左右される。本稿では、2026年9月時点の公開情報を基に、改訂議論の現在地、制度上の未確定点、日本市場固有の論点、そして地熱事業が取り得る戦略を検証する。

目次
改訂作業はどこまで進んだのか
企業の温室効果ガス排出量算定で広く参照されるGHGプロトコルは、Corporate Standard、Scope 2 Guidance、Scope 3 Standard、Actions and Market Instruments(AMI)などを横断する改訂を進めている。改訂の出発点は、2004年の企業基準、2011年のScope 3基準、2015年のScope 2ガイダンスが、その後のネットゼロ目標、義務的なサステナビリティ開示、再エネ証書市場の拡大、時間別電力データの普及に十分追いついていないという問題意識にある。特に、企業の報告値が実際の系統脱炭素化への貢献をどこまで表しているのか、同じ「再エネ100%」でも調達手段によって気候効果が大きく異なるのではないか、という批判が改訂を後押しした。
改訂案は、事務局だけで決める仕組みではない。技術的な論点は専門家で構成するTechnical Working Group(TWG)が検討し、Independent Standards Board(ISB)が公開協議に進めるか、最終案として承認するかを判断する。Steering Committee(SC)は全体戦略と監督を担う。2025年には国際標準化機構(ISO)との連携も発表され、GHGプロトコルとISO 14064-1を調和させた統合的な企業基準を共同開発する方向が示された。このため、今回の改訂は単独ガイダンスの改訂にとどまらず、将来の法定開示、SBTiなどの目標認定、投資家評価、サプライヤー調達条件に波及し得る。
Scope 2の公開協議では、精度向上への支持がある一方、時間別データの入手可能性、途上国や小規模企業の負担、既存PPAの扱い、証書市場の流動性低下など、実装面への懸念も数多く示された。したがって、最終基準では原則だけでなく、適用除外、負荷プロファイルによる推計、既存契約を保護するレガシー条項、複数年の段階導入が重要な争点となる。企業にとっての教訓は、最終文言が出るまで何もしないことではない。30分値・1時間値の需要データを整備し、既存契約の電源、発電時刻、所在地、証書帰属、契約満了時期を棚卸ししておかなければ、移行期間が設けられても対応は間に合わない。
Scope 2のパブリックコメントは2025年10月20日から2026年1月31日まで実施され、2026年7月に意見の概要が公表された。一方、Scope 3を含む統合基準の内容と日程は引き続き検討中である。したがって、以下の時期は公表済みの実績と当時の計画を整理したものであり、将来の日付や適用開始時期は変更され得る。
| 時期 | マイルストーン | 影響とアクション |
|---|---|---|
| 2025年10月 – 2026年1月 | Scope2に関するパブリックコメント | Hourly MatchingやDeliverabilityなどの改訂案について意見を募集 |
| 2026年 | コーポレート基準・Scope3のパブリックコメント | サプライチェーン排出量および全体枠組みの意見公募 |
| 2027年末 | 統合企業基準の公表目標(当時の計画) | 最終的な公表時期、経過措置、適用開始時期は今後の決定を確認する必要がある |
| 2028年末 | AMI基準の最終化 | Actions and Market Instruments(オフセット等の市場メカニズム)の最終規定 |
Scope 2改訂案の核心――「いつ」「どこで」を問う電力調達へ
地熱発電の価値評価に最も直接的な影響を及ぼし得るのが、Scope 2(購入・取得した電力、蒸気、熱、冷却に伴う間接排出)の見直しである。現行ガイダンスでは、企業は系統平均の排出係数を使うロケーション基準と、契約・証書など調達選択を反映するマーケット基準を併記する。この二元報告自体は改訂案でも維持される。しかし、問題はマーケット基準で年間の消費電力量と年間の再エネ属性量が一致すれば、発電時刻が異なっていても排出ゼロと報告できる点にある。昼間の太陽光属性で夜間のデータセンター需要を相殺する場合、会計上はゼロでも、夜間の系統ではLNGや石炭火力が稼働している。この「報告上の脱炭素」と「物理システムの脱炭素」のずれを縮めるのが、Hourly MatchingとDeliverabilityである。
① Hourly Matching(1時間単位の需給一致)
- ロケーション基準(Location-based): 改訂案は、利用可能な範囲で最も精緻な排出係数を使う階層を整え、時間と場所の粒度を高める方向を示している。時間別係数が利用できれば、太陽光が豊富な昼間と火力依存が高まる夕方・夜間を区別できる。もっとも、すべての国・地域で信頼できる時間別係数が公開されているわけではない。同案は「アクセス可能なデータ」の定義や代替データの扱いも検討しており、直ちに全社が完全な毎時係数を用意しなければならないという単純な制度ではない。日本企業にとっては、一般送配電事業者のエリア需給データ、電力小売の排出係数、拠点別スマートメーターデータをどう接続し、監査可能な算定根拠として残すかが課題になる。
- マーケット基準(Market-based): 公開草案は、電力消費とエネルギー属性証書(EAC)を時間単位で対応させる要件を提案している。考え方は「各時間の需要量を、その時間に発電された適格属性でどこまでカバーできたか」を測るものだ。属性が不足する時間は、残余ミックスなど所定の排出係数で排出量を計上するため、年間合計では再エネ量が十分でも、夜間や冬季に未一致時間が多ければScope 2はゼロにならない。実務では、需要・発電データのタイムスタンプ、計測単位、タイムゾーン、証書の償却、欠測値の補完、第三者検証まで一連のデータ統制が必要になる。小規模組織向けの閾値、標準負荷プロファイル、既存契約への経過措置、段階導入なども提案されており、最終基準では精度と実行可能性の均衡が焦点となる。
この仕組みが導入されると、調達の評価軸は年間単価から「未一致時間をどれだけ減らせるか」に移る。太陽光は昼間需要の充足には有効だが、夕方以降の残余需要を埋めるには、風力、水力、地熱、原子力、蓄電池、デマンドレスポンスなどの組み合わせが必要になる。
ここで地熱発電は高い設備利用率と出力の予見可能性から、ベース部分を埋める電源として価値を持つ。定期修繕による停止や蒸気量変動リスクがあるため、地熱発電所単体の設備利用率をそのまま24/7達成率とみなすことはできないが、需要家のロードカーブと発電実績を重ね、どの時間に不足が生じるかをシミュレーションすれば、地熱発電所を電力調達ポートフォリオに組み込むことの有用性が浮かび上がる。
② Deliverability(市場バウンダリーと物理的Deliverability)
Deliverabilityは、発電された電力が需要地点に電気的・市場制度上「届き得る」範囲にあるかを問う概念だ。目的は、送電制約で実質的に分断された地域の安価な証書を購入し、需要地の排出をゼロと表示することを防ぐことにある。公開草案は、必ずしも各時間の電子を物理的に追跡することを求めるのではなく、定義された市場境界、送電可能性、あるいは認められた証拠によってDeliverabilityを示す設計を検討している。したがって、フィジカルPPAだけが適格で、バーチャルPPAや証書取引が直ちに不適格になるわけではない。契約形態よりも、発電地点、需要地点、時間、属性の唯一性、送電制約をどう立証するかが重要になる。
日本では、北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州という一般送配電事業者の供給区域が、電力取引と需給管理の基本単位として使われる。ただし、JEPXの9エリアがGHGプロトコルの市場境界として確定したわけではない。仮にエリア単位が参照されれば、九州の地熱・太陽光属性を東京のデータセンターに充当する際、地域間連系線の容量、混雑の有無、属性移転ルールなどが論点になる。逆に、広域市場としてのDeliverabilityを証明できる設計が認められれば、地域間取引が一律に排除されるわけではない。日本の非化石証書には発電所名や所在地などのトラッキング情報を付与する仕組みがあるが、Hourly Matchingには発電時刻まで検証できるデータ基盤が必要だ。2026年には日本国内でも、需要と複数の非化石電源を1時間単位で照合し、改ざん検知と第三者検証可能な記録を残す24/7対応型PPAの実証が公表された。制度確定前でも、技術的な実装競争はすでに始まっている。
Additionalityはどう扱われるのか――Scope 2とAMIを分けて読む
Additionalityを論じる際に重要なのは、Scope 2と、企業行動が社会全体の排出をどれだけ変えたかという問題を混同しないことである。Scope 2は、報告企業が購入・消費したエネルギーに伴う排出を一定のルールで配分する「帰属的」な会計である。これに対しAdditionalityは、PPAや証書購入がなければ発電所は建設されなかったのか、既存設備の運転や投資判断を変えたのか、系統の高排出電源を実際に押し出したのか、という反実仮想を問う。後者はAMIが扱おうとしている領域であり、Scope 2の排出量が小さいことと、気候への追加的貢献が大きいことは同義ではない。
AMIの2026年ホワイトペーパーは、企業インベントリとは別に、トレーサブルな調達、追加的な介入、回避排出などを複数のステートメントで透明性をもって報告する構想を示している。ただし、これはまだ正式な基準案ではなく、完全な公開草案は2027年に予定されている。Additionalityに関する判断では、電源の新設・既設、契約期間、価格保証、資金調達への寄与、公的支援、属性の唯一性、ベースライン設定、因果関係の強さが重要になる。単に「新しい電源だから追加的」「FITだから非追加的」と二分するのではなく、企業の契約がプロジェクトの投資決定や運営継続にどの程度影響したかを証拠で示す必要がある。主な論点は以下のとおりである。
- 標準供給サービス:小売電気事業者の標準的な再エネ・実質再エネメニューは導入しやすい一方、需要家がどの電源の増設や運転継続に寄与したかを示しにくい。今後は、電源の所在地・発電時刻・運転開始年・証書償却を確認できるか、残余ミックスとの二重計上を防げるかが品質評価の中心になる。
- FIT/FIP電源:公的支援を受ける電源は、企業需要がなくても建設された可能性があるため、Additionalityの主張は慎重さを要する。一方、FIT/FIPであることだけを理由にScope 2から一律除外する最終ルールは確認されていない。制度上の環境価値の帰属、企業契約による収益安定化、FIP下での市場リスク負担、リパワリングや運転延長への寄与を個別に評価すべきである。
- 非化石証書:証書は環境価値の所有と二重計上防止に不可欠だが、現行の年度単位・商品区分だけではHourly MatchingやDeliverabilityを十分に立証できない可能性がある。発電所、所在地、発電期間、電源種を特定できるトラッキング情報と、需要データを時間単位で結び付ける仕組みが必要になる。証書単体が「使用不可」になるのではなく、品質要件を満たす証書と満たさない証書の価格差が拡大する可能性が高い。
実務上の対応は、単一の「正解商品」を選ぶことではなく、複数手段を役割分担させることになる。オンサイト太陽光は昼間需要を直接削減し、オフサイトPPAは長期の価格安定と電源特定をもたらす。地熱・水力・風力は太陽光が弱い時間を補完し、蓄電池は余剰属性を需要時間へ移す。ただし、蓄電時の電源属性、充放電損失、系統充電分の排出、証書の二重使用を整理しなければならない。デマンドレスポンスは高排出時間帯の消費を移動させ、未一致量そのものを減らす。新設かつ公的支援に依存しない電源との長期PPAはAdditionalityを説明しやすいが、信用力、契約期間、価格調整、発電不足時の補填、規制変更、証書帰属を契約に明記して初めて整合的に運用できる。
Scope 3改訂――網羅性とデータ品質をどう高めるか
サプライチェーン排出量を対象とするScope 3の改訂は、Scope 2ほど地熱の電力価値に直結しないように見える。しかし、地熱発電所の調査、探査、開発、運転保守、投融資、熱供給まで含めると、事業者・需要家・金融機関の開示実務に広く影響する。2026年3月の進捗文書は、データ品質、境界設定、投資、既存15カテゴリーに収まらない活動を対象とする新カテゴリーなど、Phase 1の検討状況を示した。ただし、文書自身が「最終基準として依拠すべきではない」と明記しており、以下は現段階の方向性として読む必要がある。
- 95%を含む境界案: 作業文書では、重要なScope 3排出を原則として算定対象に含め、正当化できる除外を合計5%以内に抑える考え方が検討されている。狙いは、算定が難しいカテゴリーを恣意的に外すことを防ぐことだ。地熱事業者であれば、鋼材・セメント、掘削サービス、設備輸送、工事、廃棄物、出張、投資などの排出をどこまで一次データで把握できるかが問われる。
- データ品質の可視化:Scope 3排出量を、サプライヤー固有データ、活動量データ、支出ベース推計など、データ種別ごとに分解して報告する案が示されている。総量だけでなく、どこまで実測・一次データに基づくかが評価対象になるため、調達契約に排出データ提供、算定方法、更新頻度、検証権限を組み込む必要がある。
- カテゴリー16の検討:既存の15カテゴリーに収まらない「その他のバリューチェーン活動」や企業が促進する活動を捉えるための新カテゴリーが議論されている。ただし、地熱の熱供給によって顧客が化石燃料を回避した効果を、そのまま自社Scope 3のマイナス排出として計上できるわけではない。企業インベントリと、製品比較、回避排出、介入効果は別建てで示すのが原則となる。
- 投資・金融排出:カテゴリー15では、出資、融資、ファンド、プロジェクトファイナンスの境界や帰属方法が検討されている。地熱は探査・掘削段階の資金負担とリスクが大きいため、金融機関にとっては融資先排出だけでなく、低炭素インフラへの資金提供効果、案件のライフサイクル排出、座礁リスクをどう説明するかが重要になる。
- 複数指標の併記:GHGプロトコル全体では、企業インベントリ、契約による属性、オフセット、回避排出、その他の介入効果を混ぜずに報告する方向が強まっている。地熱事業者は「発電所のライフサイクル排出」「顧客へ供給した低炭素電力の属性」「社会全体で回避された排出」を別々に測り、境界と前提を明記することが信頼性につながる。
地熱事業のScope 3で見落とされやすいのは、発電時の排出が小さくても、坑井の掘削、ケーシング、セメント、蒸気配管、発電設備、長距離輸送などに相応の上流排出がある点だ。さらに、噴気試験や非凝縮性ガスの扱いはScope 1との境界確認が必要になる。事業者は、主要資材の重量・原産地・再生材比率、掘削リグの燃料、工事電力、輸送距離、設備寿命、廃坑措置までをデータ台帳に組み込み、EPC事業者とサプライヤーから取得する一次データの優先順位を定めるべきである。これは単なる開示対応ではなく、低炭素鋼材の採用、掘削効率の改善、機器延命など、投資効果の高い削減策を発見する管理基盤になる。
地熱に生まれる機会――「24/7」の価値をどう収益化するか
Hourly MatchingとDeliverabilityが最終基準に組み込まれれば、地熱の競争力は「再エネであること」だけでなく、「必要な時間に発電できること」で評価される。太陽光の発電が落ちる夕方から夜間、天候で風力が弱まる時間、季節変動が大きい局面でも、地熱は比較的安定した出力を維持できる。この特性は、需要家のベース負荷を埋め、ポートフォリオ全体の未一致時間と蓄電池必要量を減らす。ただし、地熱にも定期点検、井戸の減衰、スケール付着、蒸気組成変化、系統停止がある。したがって、価値は設備利用率の平均値ではなく、時間別の可用性、予測誤差、停止時の代替調達コストまで含めて測るべきだ。
① 需要地に近い開発と広域調達を両にらみで
日本で一般送配電事業者のエリアが市場境界として参照される場合、北海道や九州の地熱価値を東京のデータセンターへ移転する取引には、連系線、混雑、属性移転の証跡に関する追加条件が生じる可能性がある。このため開発地点の評価では、資源量と掘削成功確率だけでなく、同一エリア内の大口需要、将来のデータセンター・半導体工場・電化需要、系統接続余力、出力制御、地域間価格差を組み込む必要がある。他方、良質な地熱資源は特定地域に偏在する。需要地近接だけを優先すると資源の質や地域受容性を損なうため、同一エリア需要家とのPPA、複数需要家への共同供給、広域取引、現地での熱利用・水素製造など複数の需要創出策を比較すべきである。
② 制度依存を抑え、時間価値を契約に織り込む
地熱の時間価値を収益化するには、PPAを単純な固定単価の電力量契約から、時間別品質を保証するサービスへ進化させる必要がある。契約では、対象電源と証書の帰属、1時間ごとのマッチング目標、計測・検証方法、計画停止と突発停止時の代替電源、未達時の精算、蓄電池や他電源を束ねる権限、規制変更時の見直しを定める。価格は、通常の電力量価値、環境価値、時間価値、供給安定性、データ証明サービスに分解すると、需要家と金融機関がリスクを評価しやすい。地熱単体の高コストを比較するのではなく、太陽光・蓄電池だけで同じ毎時達成率を実現する場合の総コストや、未一致時間に購入する代替電力・証書の費用と比較することが重要だ。
事業者が今から着手すべき準備は四つある。第一に、候補需要家の30分値・1時間値ロードカーブと発電所の実績・予測出力を突合し、年間再エネ比率ではなくHourly Matching率、最長未一致時間、代替調達量を試算する。第二に、発電・需要・証書のデータを同一IDで結び、監査証跡、欠測補完、第三者検証を設計する。第三に、単一需要家への長期PPAだけでなく、アグリゲーター、小売、蓄電池、複数電源との連携を前提に商品化する。第四に、制度が確定していないリスクを契約の変更条項と段階的な品質目標で吸収することである。GHGプロトコル改訂はまだ完成していないが、公開協議案では「年間量から時間と場所へ」という方向性が示されている。地熱に特需が自動的に生まれるわけではない。安定出力をデータで証明し、需要家の未一致時間を減らし、その効果を契約と価格に翻訳できる事業者には、新しいグリーン電力市場で付加価値を獲得する機会が生じ得る。
参考文献
- Greenhouse Gas Protocol, “Public Consultation – Scope 2”, October 2025.
- Greenhouse Gas Protocol, “Upcoming Scope 2 Public Consultation: Hourly Matching and Deliverability”, October 14, 2025.
- Greenhouse Gas Protocol, “Feedback Opportunities”(Scope 2公開協議の実施期間・AMI意見募集の概要), 2026年参照.
- Greenhouse Gas Protocol, “Actions and Market Instruments Phase 1 Progress Update White Paper”, March 2026.
- Greenhouse Gas Protocol, “Scope 3 Standard Revisions Phase 1 Progress Update”, March 2026.
- Greenhouse Gas Protocol, “ISO and GHG Protocol Announce Strategic Partnership to Deliver Unified Global Standards for Greenhouse Gas Emissions Accounting”, September 9, 2025.
- Greenhouse Gas Protocol, “GHG Protocol Announces Key Standard Development Updates”, July 29, 2026.
- 電源開発株式会社ほか「『24/7対応型コーポレートPPA』の提供に向けた実証に成功」2026年4月17日.
- NTTアノードエナジー株式会社ほか「24/7カーボンフリー電力供給に向けたHourly Matchingの実証実験を完了」2026年2月12日.

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