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地熱発電の転換点

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超高温岩体、ベースロード電源需要、公的リスク分担、グローバルな知識ネットワークは、次世代地熱を有望技術から戦略的インフラへと押し上げられるか

GeoVanguard Intelligenceの独占インタビューで、Clean Air Task Force(CATF)の超高温岩体地熱担当シニアディレクター、テラ・ロジャース氏は、次世代地熱が商業化と政策の両面で重大な試練を迎えつつあるとの見方を示した。地熱は従来、適地が限られる再生可能エネルギーとみなされてきた。しかし現在では、産業の電化やデジタルインフラの拡大などで電力需要が増すなか、クリーンで安定供給可能な電力をもたらす有力な選択肢として、改めて注目されている。

もっとも、地熱産業にはなお大きな制約が残る。地下構造の不確実性、巨額の初期投資、未成熟なサプライチェーン、そして天然の熱水貯留層が存在する地域が限られることだ。ただしロジャース氏によれば、こうした障壁にも変化の兆しが見え始めている。深部掘削、貯留層造成技術、高温地下工学の技術的な進歩によって開発可能な資源が広がり、加えて大口需要家の増加に伴いクリーンで24時間供給可能な電源の価値が高まっているからだ。

ロジャース氏は、次の成長段階を「どの技術が勝つか」といった競争ではなく、システム全体の課題として捉えている。高温地下技術の革新を、公的なリスク分担、石油・ガス産業並みの事業遂行能力、専用機器の製造、資金調達可能なプロジェクト設計、さらに個別の技術知見を業界全体の能力へ転換する仕組みと結び付ける必要があるという。

本稿では、市場の次の段階を左右する5つの論点を検討する。超高温システムはプロジェクトの採算性を変え得るのか。持続的な需要はどこから生まれるのか。サプライチェーンをどう拡大するのか。初期の盆地開発に伴うリスクを抑えるうえで、政府はどのような役割を担うべきか。そして、Geothermal Frontierのような取り組みは、業界に根強く残る知識格差をどう埋められるのか。

超高温岩体と高エンタルピー発電の経済性

地熱発電にとって、より高エンタルピーのシステム、なかでも約400°C(750°F)超の超高温岩体への移行は、単なる技術上の節目ではない。ロジャース氏は、これを事業採算性の転換点とみているとのこと。高温坑井では掘削費が増える可能性がある一方、発電出力はコストの増加を大幅に上回って伸び得るので、これまで他の安定電源との競争が難しかったプロジェクトでも、投資収益性が改善する可能性があるそうだ。

「計算は単純です」とロジャース氏は説明する。「確かに、400°Cの坑井は200°Cの坑井より掘削コストが高くなります。しかし、コストが5倍から10倍になるわけではありません。これに対し、発電容量は5倍から10倍になります」

このようなエネルギー密度の飛躍は、投資判断を大きく変え得る。次世代技術で乾燥した高温岩体に人工貯留層を造成できれば、開発事業者は天然の熱水系が偶然存在する地域だけに縛られなくなる。ロジャース氏は、この技術転換により、限られた好条件の地点から、はるかに広大な世界規模の資源基盤へと事業機会を広げられる可能性があると指摘した。

ベースロード電源需要と地熱の価値

ロジャース氏は、AIやハイパースケール・データセンターなど、電力を大量に消費する産業が需要の押し上げ要因になっていることを認めている。ただし、その影響を過度に強調すべきではないともみている。需要は増加基調にあるものの、どこまで続き、最終的にどの規模に達するかは、見通しにくいからだ。

それでも、データセンターの重要性が薄れるわけではない。むしろ、地熱の本質的な価値を浮き彫りにする。ロジャース氏が重視するのは、信頼性が高く、常時利用できる電力への継続的な需要だ。太陽光と風力は脱炭素型エネルギーシステムの中核であり続けるが、出力が変動するため、大規模蓄電や補完的な安定電源がなければ、連続供給を必要とする需要家を単独で支えることは難しい。

現在、多くの電力会社は、こうしたベースロード電源需要を満たす手段として天然ガスを選んでいる。しかしロジャース氏は、この選択には、燃料価格の変動、排出規制、ガスタービンなど主要機器の長い調達期間といった複数のリスクが伴うと指摘する。

これに対し地熱は、継続的な燃料価格リスクを負わずに、安定した出力を提供できる。さらに、地表で必要とする面積が比較的小さいため、大規模な再生可能エネルギー開発で起こりがちな土地利用をめぐる対立も緩和できる可能性があると、ロジャース氏は強調した。

産業規模への拡大:資源開発を支えるサプライチェーンの課題

もっとも、この潜在力を実現するにはサプライチェーンの整備が欠かせない。現状では、特注品への依存、標準化の遅れ、成熟した資源開発産業を支えるようなサービス・エコシステムの不足が、規模拡大の制約になっているとロジャース氏は警告する。

世界規模で事業を展開するには、SLB、Halliburton、Baker Hughesなど、従来型の石油・ガスサービス企業が持つ遂行能力を活用する必要があるだろう。ただしロジャース氏によれば、エネルギー安全保障への懸念が続くなか、これらの企業は現在も従来型プロジェクトへの対応に追われている。

こうした能力を地熱分野に振り向ける鍵は、技術の将来性だけではない。信頼でき、各国・機関で足並みのそろった政策シグナルが必要だと、ロジャース氏はみる。

ロジャース氏は、政策立案者に対し、強力で一貫したシグナルを発するよう求めている。従来の地熱市場以外の国々が、地熱を自国のエネルギーミックスで一定の比率まで拡大すると明確に約束すれば、サービス企業は設備、人材、事業運営モデルを地熱向けに適応させる投資を判断しやすくなる。

この点でロジャース氏は、国際的な産業基盤の役割にも言及した。なかでも日本は、高度な生産用ポンプやタービンの製造力で高く評価されている。同氏はこの能力を「驚異的で、他の追随を許さない」と評し、日本のサプライヤーを、規模拡大に必要な専用機器の供給基盤を担う有力な存在と位置付けた。

探査リスクからBankableなインフラへ

資金調達も重要な論点だ。ロジャース氏は、金融機関が許容できるリスク水準と、初期段階の地下資源プロジェクトに内在する不確実性との間に、構造的な隔たりがあると説明する。

商業金融機関は通常、成熟したインフラ資産に近い、安定的で予測しやすい収益を求める。一方、初期段階のグリーンフィールドプロジェクトは地下構造の不確実性が大きく、十分な現場データが蓄積されるまでは、従来型のプロジェクトファイナンスを利用しにくい。

実証段階と商業融資が可能な資産との間に横たわるこの「死の谷」を越えるには、政府が「初号案件」のリスクを引き受ける必要があると、ロジャース氏は主張する。これは、従来型のプロジェクトファイナンスを支えるだけの地下データが蓄積される前に、開発事業者がそのサイトで最初の坑井を掘削する際、リスクとコストが集中する状況を指す。

新たなサイトで最初に掘削する坑井は、地域の地質、掘削条件、貯留層の応答を把握しながら進めるため、一般に最も高コストとなる。しかし複数坑井を開発する段階に入れば、評価中心の作業から反復可能な事業遂行へ移行し、コストを大きく下げられる。公的資金、共同試験施設、助成金、融資保証は、プロジェクトを最もリスクの高い初期段階から前進させる触媒となり得る。

ロジャース氏は、この考え方のモデルとして米国政府のUtah FORGEプログラムを挙げた。同プログラムは、グリーンフィールドサイトで地域の技術的実現可能性を実証し、地下データを公開している。これにより、民間開発事業者が抱える情報の非対称性を緩和し、公的部門によるリスク負担を、より幅広い商業価値へ転換することに貢献した。

政府が支援する再保険制度にも可能性がある。公的プログラムが初期の地下リスクの一部を吸収すれば、保険会社の参入とデータ蓄積を促し、地熱リスクの特性をより精緻に評価できるようになる。サイトの初期特性が明らかになれば、金融機関もその後の開発に融資しやすくなる可能性がある。

Geothermal Frontierと技術知の共有

ロジャース氏によれば、地熱分野では長年、知識が組織や地域ごとのサイロに閉じ込められてきた。サービス企業がプロジェクトや事業者の間を日常的に行き来する石油・ガス産業とは異なり、地熱分野では、操業上の教訓、ベンチスケールの知見、現場データを地域横断で体系的に共有する仕組みが乏しかった。

この知識の分断が、CATFの支援するGeothermal Frontier設立の背景の一つとなった。同イニシアチブは、世界各地に散在する専門知識を見つけやすくすることを目指す。研究者、地質学者、事業者、機器設計者は、特定の岩石、流体、温度、地質条件について、誰がどのような試験を行ったかを把握する必要がある。しかし、組織や国境を越えて関連知識を探し出すのは容易ではない。

Geothermal Frontierは、相互に関係する2つの利用者層を想定している。第一は技術実務者だ。例えば地質学者やプロジェクトエンジニアは、地上設備を設計する前に、300°C、400°C、またはそれ以上の温度で、地熱流体が特定の岩種とどう反応するかというデータを必要とする。第二は研究コミュニティである。各研究所は相互補完的な能力を持ちながらも、適切な協力相手を効率よく見つける手段を欠くことがある。

ロジャース氏は、この取り組みが急務となっている背景に、MazamaやQuaiseなど、従来より大幅に高い温度域でEGS開発を進めるプロジェクトの登場を挙げた。すべての開発事業者が、地下数kmでの高額な現場試験だけを通じて学ぶ必要はない。ベンチスケールの専門知識、地質データ、国際的な研究ネットワークを利用しやすくすれば、各チームは現場に多額の資本を投じる前に、より速く検証を重ねられる。

日本にとって、このテーマはとりわけ戦略的な意味を持つ。ロジャース氏は、高温地層科学に関する日本の専門知識を、重要でありながら国際的な認知が十分でない知識基盤として挙げた。これらの知見を翻訳し、相互につなぎ、世界の開発事業者が参照できる形にすれば、日本は製造力だけでなく、次世代地熱の展開を支える技術インテリジェンスの面でも貢献できる。

結論:地下熱を戦略的インフラへ転換する

次世代地熱は、クリーンで安定供給が可能、かつ拡張性のある電源を求める国や地域にとって、戦略的インフラの選択肢になりつつある。ロジャース氏の見解が示すのは、その実現を左右するのが地質条件だけではないという点だ。掘削技術の革新、公的なリスク分担、サプライチェーンの動員、電力多消費部門からの需要、さらにGeothermal Frontierのような知識共有の取り組みを、相互に連動させる必要がある。

残る課題は実行である。超高温岩体と高度なEGS技術は、個別の実証段階を越え、反復可能で資金調達可能なプロジェクト群へ移行できることを示さなければならない。そのためには、政府が初期坑井のリスクを引き受け、メーカーが高温対応機器を量産し、金融機関と保険会社が透明性の高い現場データから知見を蓄積する必要がある。加えて、開発事業者間の協力を深め、技術コミュニティが苦労して得た地下知識を、検索しやすく実務に生かしやすい形で共有することも欠かせない。

これらの条件がそろえば、深部地熱はニッチなクリーンエネルギーの選択肢を超え得る。小さな土地占有面積で24時間、低炭素電力を供給でき、しかも世界規模の市場可能性を持つ、数少ないエネルギー資源の一つになるからだ。次の地熱ブームの成否は、地下の条件だけでは決まらない。政策への信頼、産業界の連携、そして地下の熱を資金調達可能なエネルギーインフラへ転換する力が、その行方を左右する。

小暮 遼

ジオヴァンガード・エナジー株式会社 代表取締役

東京工業大学(現・東京科学大学)大学院技術経営専攻修了後、青年海外協力隊を経て三井物産株式会社および三菱商事株式会社にて約10年間、国内外(米欧駐在含む)で電力・エネルギー分野の事業開発やインフラ投資に従事。 その他、外資系再生可能エネルギー事業会社、インフラ投資ファンド、地熱開発ベンチャー等の経験を経て、2026年にジオヴァンガード・エナジー株式会社を創業し代表取締役に就任。 現在は地熱エネルギーを含む次世代型技術を用いたプロジェクト開発・事業オーケストレーションを牽引し、パラレルアントレプレナーとして複数の企業経営や専門インテリジェンスプラットフォームの運営を手掛ける。

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