次世代型技術
地下流体に依存しない地熱へ:クローズドループ地熱の技術動向と日本市場導入への展望
マルチラテラルと同軸二重管、海外三社の技術戦略、温泉地域で問われる長期熱性能

地熱発電の適地を決めてきたのは、地下の「熱」だけではない。従来型開発には、熱を運ぶ蒸気・熱水と、それを生産井へ導く透水性の高い貯留層が必要である。高温の岩体を掘り当てても、十分な流量が得られなければ事業は成立しにくい。逆に、良好な熱水系が存在しても、温泉事業者との調整、還元能力、スケールや腐食への対策が開発期間と費用を左右する。この「熱・水・貯留槽」の三条件への依存が、地熱を安定電源として期待しながら導入を拡大できない根本的な制約となってきた。
クローズドループ技術は、この前提を変えようとする。地中に人工的な閉鎖流路を構築し、その内部だけで作動流体を循環させ、周囲の岩盤から坑壁・配管を介して熱を受け取る。地下流体を生産せず、原則として地層へ作動流体を注入しないため、資源量を流体の生産性ではなく、岩盤温度、熱伝導率、坑井延長、流量、流体物性の組み合わせとして設計できる。地下熱交換器の形状を増やすマルチラテラル方式、一本の坑井内で往復流路を形成する同軸二重管方式、坑井周辺の熱伝導を材料で補強する方式など、企業ごとの技術戦略は異なるが、共通する狙いは「地下流体の偶然性」を減らすことにある。
この特徴は、温泉資源との共存が不可欠な日本で特に重要である。地下水位や泉温への水理的な影響を回避しやすく、透水性の低い高温岩体や、従来は生産性不足とされた既存井にも選択肢を広げ得るからだ。一方で、閉鎖流路にすれば熱が無制限に得られるわけではない。岩盤内の熱伝導によって坑井周辺へ補給される熱量を上回るペースで地上に熱を取り出すと、坑井周辺の温度が低下するため、同じ水準の熱回収を長期にわたって維持することはできない。さらに、長大・複雑な坑井の掘削費、圧力損失、断熱、材料耐久性、漏えい時の安全性が新たな事業リスクとなる。クローズドループは資源リスクを消す技術というより、資源リスクを予測・管理可能な工学リスクへ置き換える技術と見るべきである。
本稿では、日本における同軸二重管型研究の系譜を振り返ったうえで、Eavor Technologies、XGS Energy、GreenFire Energyの三社を取り上げ、熱交換面積を稼ぐ設計、熱流束を高める材料技術、既存井を再生する改修モデルという違いを明らかにする。加えて、循環流体として一般的な水のほか、閉鎖流路内での利用例がある超臨界二酸化炭素、有機媒体、さらには超高温岩体を想定したモルテンソルトの可能性を検討する。超臨界二酸化炭素については、地下の亀裂・貯留層へ流すCO₂-EGSが研究の主流であり、密閉配管内だけを循環させるクローズドループ利用とは区別する。評価の焦点は、単なる最高温度や瞬間出力ではなく、数十年の熱減衰、補機動力、漏えい時の環境・安全影響、保守性、国内規制とサプライチェーンを含む総合的な実装可能性である。

目次
日本の開発史——同軸二重管の先行研究から政策的実証へ
日本のクローズドループ方式の研究は、近年突然始まったものではない。1981年には高温試錐孔を用いた抽熱実験が行われ、その後、旧公害資源研究所(現・産業技術総合研究所)が同軸二重管型の坑内熱交換器(DCHE)を研究した。1991年にはハワイで概念実証が実施され、国内でも大分県で二重管に加圧水を循環させる試験が行われた。これらは一本の坑井内で流体を往復させる発想であり、今日の同軸二重管方式につながる。2021〜2022年度にはJOGMECがクローズドループ方式の技術・経済性を評価し、2023年に結果を公表した。さらに2026年にはNEDOのグリーンイノベーション基金で、マルチラテラル方式と同軸二重管方式の試験井掘削、循環試験、熱回収持続性、掘削コスト低減を一体で扱う開発方針が示された。日本の議論は、要素研究から事業性を伴う現地実証へ移りつつある。
二つの基本形——マルチラテラルと同軸二重管
| 比較項目 | マルチラテラル方式 | 同軸二重管方式 |
|---|---|---|
| 構造 | 複数の水平・傾斜坑を分岐させ、二本の主坑井間などを接続して大きな地下熱交換器を形成 | 一本の坑井内に内管と外管を配置し、環状部と内管で作動流体を往復 |
| 熱交換面積 | 長い坑井延長を確保しやすく、大規模化に向く | 一坑当たりの面積は限定されるが、構造が比較的単純 |
| 施工上の焦点 | 長距離方向性掘削、分岐、坑井交差・接続、流量配分 | 断熱内管、環状流路、坑径、圧力損失、改修施工 |
| 適用先 | 新規の大規模熱・発電案件 | 既存井の再利用、小規模・段階開発、蒸気井の延命 |
| 主要リスク | 掘削費と複雑坑井の健全性、枝坑間の不均等流動 | 限られた熱交換面積、内外流の熱短絡、出力の小ささ |
Eavor Technologies——坑井を地下の「ラジエーター」にする
Eavor TechnologiesのEavor-Loopは、二本の主坑井から複数の横坑を展開するマルチラテラル型である。閉鎖流路内の作動流体が岩盤から熱を受け取り、温度差と密度差を利用したサーモサイフォン効果で循環する設計を特徴とする。2019年にカナダ・アルバータ州でEavor-Liteの運転を開始し、深度約2.4キロメートルで二本の水平区間を接続して、坑井交差、漏えい抑制、熱性能予測、負荷追従運転を実証してきた。商用化の焦点はドイツ・ゲーレッツリートへ移り、より深い坑井と多数の横坑を用いた熱・電力併給が進む。強みは熱交換面積の拡張性と、地下流体に依存しない出力予測性である。反面、長大な高温坑井を複数正確に掘り、接続・封止する工程が資本費を押し上げるため、習熟効果による掘削の効率化と標準化が成否を分ける。
XGS Energy——単一坑井と材料工学で熱流束を高める
XGS Energyは、一本の坑井にpipe-in-pipe型熱交換器を設けるモジュール方式を採る。外側流路を下降した水が坑底側で加熱され、断熱した内管を通って地表へ戻る。独自性は、坑井周辺に高熱伝導材料を配置するThermal Reach Enhancement(TRE)にある。岩盤から坑井までの熱移動を材料工学で補強し、同軸二重管の弱点である限られた熱流束を改善するための技術だ。単一坑井単位で増設でき、地下水を消費せず、透水性にも依存しにくい一方、材料の長期安定性、施工品質、熱サイクルに伴う界面劣化を実フィールドで確認する必要がある。技術思想は「坑井を増やして面積を稼ぐ」よりも、「一坑当たりの熱移動を高める」方向にある。
GreenFire Energy——既存井を生かすGreenLoop
GreenFire EnergyのGreenLoopは、坑内熱交換器を用いる同軸二重管型を中核に、既存の地熱井・油ガス井の改修、新規井、熱水卓越・蒸気卓越などの条件に合わせて作動流体と設計を選ぶ。2019年のカリフォルニア州Coso実証では、既存地熱井に長さ約330メートルの管内熱交換器を設置し、その密閉流路内に水と超臨界CO₂をそれぞれ循環させた。超臨界CO₂試験ではサーモサイフォンによる循環が確認されたが、試験中は熱交換器外側で地熱蒸気を異なる流量で併産しており、高温乾燥岩から熱伝導のみで熱を回収する大規模商用クローズドループを実証したものではない。事業上の強みは、未利用井や低生産井を再活用し、既存の坑口・道路・送電設備を生かして初期投資と開発期間を抑えられる点にある。日本では2025年に東洋エンジニアリングとアジア太平洋での共同展開に向けた協業が公表され、日本・インドネシアで候補地選定と事業化調査が進む。大規模新設より、既存地熱地域の資産再生から導入できる点で日本市場との親和性が高い。
作動流体の選択——水、超臨界CO₂、有機媒体、モルテンソルト
クローズドループでは、地下流体に依存せず人為的に選定した作動流体を用いることができる。この自由度はクローズドループの重要な設計変数である。実用・実証の中心は水だが、温度・圧力条件、自然循環の成立性、地上発電設備との接続方法によっては、超臨界CO₂や低沸点有機媒体が候補となる。さらに、400℃を超える超高温岩体を視野に、溶融塩(モルテンソルト)を地下の熱輸送・蓄熱媒体として使う概念も提案されている。ただし、流体の比熱が高いほど常に有利という単純な問題ではない。密度差によるサーモサイフォン、粘度による循環動力、相変化、材料適合性、凍結・凝固、漏えい時の安全性、地上側の発電サイクルまで含めて選ぶ必要がある。
| 流体 | 期待される利点 | 主な制約・留意点 |
|---|---|---|
| 水 | 高い比熱、低コスト、入手性、熱物性データと機器実績が豊富 | 高温高圧化、沸騰管理、腐食、寒冷時の凍結。低温条件では循環動力が大きくなる場合がある |
| 超臨界CO₂ | 閉鎖流路内では、低粘度と密度差を生かしたサーモサイフォンが期待できる。既存地熱井の坑内熱交換器で実証例がある | 研究の主流はCO₂-EGS。クローズドループでの実証例は限定的。高圧設備、シール、漏えい・減圧管理が必要 |
| 有機媒体(ペンタン、イソブタン等) | 低沸点のため、中低温熱源でも直接発電サイクルを構成し、地上熱交換器を省ける可能性 | 可燃性、環境影響、厳格な漏えい防止、防爆設備。深井戸全体での相状態制御が複雑 |
| 水・グリコール等 | 凍結防止が必要な浅部・寒冷地の熱利用で実績 | 粘度上昇によるポンプ動力増、熱性能低下、高温域での分解を考慮 |
| モルテンソルト | 高温域で低い蒸気圧を保ち、大きな顕熱を輸送可能。地上蓄熱と組み合わせた出力平準化・時間移行に適性 | 凝固温度が高く、停止時も全流路の保温・加熱が必要。腐食、塩の化学安定性、深井戸での起動・保守、重量増大が課題 |
超臨界CO₂:地熱分野における超臨界CO₂利用の研究は、人工亀裂や地下貯留層へCO₂を注入し、岩盤と直接接触させて熱を回収するCO₂-EGSが中心である。これに対し、クローズドループではCO₂を密閉された坑内配管の内部だけに循環させ、地層へは注入しない。水より粘度が低く、温度差に伴う密度変化を利用してサーモサイフォンを形成しやすい可能性がある一方、体積当たりの熱輸送能力や必要圧力、シール性能を含めて水との優劣を評価する必要がある。GreenFireのCoso実証では、既存地熱井に設置した長さ約330メートルの同軸型坑内熱交換器の密閉流路内で超臨界CO₂を循環させ、初期充填後にポンプを用いない連続循環を確認した。ただし、前述のとおり試験中は熱交換器外側で地熱蒸気を併産しており、高温乾燥岩を対象に熱伝導だけで長期発電する商用システムの実証ではない。したがって、CO₂-EGSの研究成果を、そのままクローズドループの性能根拠として扱うことはできない。
有機媒体:n-ペンタン、シクロペンタン、イソペンタン、イソブタンなどの低沸点媒体を坑内から直接循環させれば、坑口でそのまま発電タービンへ送り、循環水とORC媒体の間の地上熱交換器を省略できる可能性がある。熱交換段数を減らせることは温度差損失と設備費の低減につながるが、可燃性流体を長大な地下配管に封入するため、漏えい確率が低くてもリスク評価は慎重にならざるを得ない。国内適用では、高圧ガス、防爆、消防、坑井保安を横断した安全ケースが必要となる。アンモニアや冷媒類も熱力学上は検討対象になり得るが、毒性、環境規制、材料適合性の面から、深部クローズドループでの実装は限定的である。
モルテンソルト:硝酸塩系、塩化物系などの溶融塩は、高温でも蒸気圧が低く、集光型太陽熱発電(CSP)で熱輸送・蓄熱媒体として実績がある。クローズドループ地熱では、超高温岩体から回収した熱を同じ媒体のまま地上蓄熱槽へ送り、需要時間帯に発電する構想が考えられる。熱回収を常時最大化せず、岩盤からの熱補給と系統需要に合わせて運転する「熱的バッファー」として使えれば、連続運転による温度低下を緩和し、設備価値を容量価値へ転換できる可能性がある。
もっとも、モルテンソルトは現時点で一般的な深部クローズドループの標準流体ではなく、超高温域を対象とする研究・特許・概念設計の色彩が強い。懸念は凝固である。硝酸塩系でも融点を下回れば固化し、数キロメートルの坑井内で閉塞すれば復旧は容易ではない。起動時の予熱、停止時のヒートトレース、非常用排出、ポンプ・弁・シールの耐塩性を一体設計しなければならない。塩化物系はより高温に対応し得る一方、腐食性が厳しく、ニッケル基合金や被覆材の費用が増す。したがって日本では、まず高温試験設備や短区間ループで材料、凝固回避、熱サイクル耐久性を検証し、水系では価値を引き出しにくい超高温サイトに対象を絞るのが現実的である。
日本市場への期待——温泉資源との共存可能性
クローズドループが日本で注目される最大の理由は、地下の蒸気・熱水を採取せず、作動流体を地層へ注入しないため、温泉帯の水位、湧出量、泉温、化学成分へ影響する主要な経路を減らせる点にある。水圧破砕を前提としない方式では、圧力伝播による誘発地震リスクも相対的に抑えやすい。これは、温泉地域に近い熱源、透水性が乏しい高温岩体、既存井の周辺など、従来型では開発判断が難しかった場所を再評価する余地を生む。ただし「閉じた配管だから影響はゼロ」とは言えない。掘削時の逸泥、坑井と断層・帯水層の交差、ケーシングやセメントの損傷、掘削振動、地表設備や工事用水は別個に管理すべきである。温泉との共存は方式名ではなく、坑井健全性、地下水監視、ベースライン調査、異常時の停止基準によって証明される。
見落とせない課題——連続運転での熱回収低減リスク
クローズドループの出力は、坑井壁近傍へ岩盤内部から熱が補給される速度を超えて熱を取り出すと低下する。運転初期には坑井周辺の蓄熱を利用して高い出口温度を得られても、連続運転により低温域が広がれば、同じ流量でも出口温度と発電効率が下がる。これは流体が失われる「貯留層減衰」とは異なるが、事業収益には同様に影響する。対策は、①横坑延長・本数を増やして熱交換面積を確保する、②坑井間隔を広げて熱的干渉を避ける、③流量を最適化する、④夜間や季節に応じて出力を抑え、岩盤からの熱回復時間を設ける、⑤発電だけでなく地域熱供給や産業熱を組み合わせ、低温側まで利用する、ことである。重要なのは初期ピーク出力ではなく、20〜30年の温度低下曲線、補機動力、設備利用率を織り込んだ正味出力である。
日本で成立させるための方策
第一に、方式をサイトごとに選ぶ:方式選定は、単純な技術優劣ではなく、地下条件、既存資産、求める出力規模、許容できる初期投資の組み合わせで決まる。高温岩体が広がり、長距離の方向性掘削と複数坑井の集約施工が可能な地点では、熱交換面積を大きく確保できるマルチラテラル方式が有力となる。ただし、枝坑の掘削・接続精度、流量配分、坑井間の熱的干渉を事前に評価しなければ、坑井延長の増加がそのまま有効な熱回収面積にはならない。一方、既存の地熱井・調査井を再利用できる地点や、需要の増加に合わせて一坑ずつ投資したい案件では、同軸二重管方式の方が導入しやすい。ただし、内管と外管の熱短絡、圧力損失、単坑当たり出力の小ささが制約となる。したがって、地温勾配、岩盤熱伝導率、坑径、既存井の健全性、敷地制約、熱需要を共通条件に置き、長期正味出力とライフサイクルコストで方式を比較する必要がある。
第二に、掘削費を政策支援の中心に置く:クローズドループでは地下流体の生産性リスクを抑えられる反面、長大坑井、マルチラテラル分岐、坑井接続、高温下のケーシング・セメント、断熱内管など、完成前に多額の資金を必要とする。しかも初号機では、掘削速度、ビット寿命、坑跡制御、逸泥、坑井健全性に関する国内実績が乏しく、技術リスクを価格へ織り込みにくい。政策支援は、完成後の発電量に対する補助だけでなく、試験井、長期循環試験、既存井診断、共通データ取得、失敗坑井の一部補償に重点を置くべきである。複数案件で掘削データとコスト内訳を共有し、標準坑井設計、資機材調達、許認可手順を反復できれば、同じ地域で連続施工する掘削キャンペーンによって習熟効果を得られる。公的支援の目的は個別案件の採算を恒常的に補うことではなく、初号機リスクを社会的に分担し、民間が再現可能なコスト曲線を形成することにある。
第三に、長期性能を公開する:クローズドループの事業性は、運転開始時の最高温度や瞬間的な熱出力ではなく、数十年にわたる出口温度、流量、循環動力、停止率の推移で決まる。特に、岩盤内の熱伝導による補給量を上回って熱を取り出した場合、どの程度の速度で出口温度が低下し、休止や負荷調整によってどこまで回復するかを実測する必要がある。公開すべき指標には、坑口熱出力だけでなく、ポンプ等を差し引いた正味出力、坑井ごとの流量配分、配管の熱損失、ケーシング・セメントの健全性、作動流体の補充量、保守停止の原因を含めるべきである。周辺温泉についても、開発前のベースラインを設定し、水位、湧出量、泉温、化学成分を継続観測することで、「影響がない」という主張を検証可能なデータへ変えられる。予測モデルと実測値の乖離、性能低下やトラブルも含めて公開することが、金融機関のリスク評価、規制当局の審査、地域との合意形成、次号機の設計改善を同時に進める基盤となる。
第四に、作動流体の選定を立地評価の後工程にしない:水、有機媒体、モルテンソルトでは、最適な坑径、配管材、坑口圧力、地上設備、許認可が根本から異なる。超臨界CO₂についても、地層中を流動させるCO₂-EGSと、密閉配管内だけを循環させるクローズドループとでは、地下設計、漏えい時の挙動、規制上の論点が異なる。比較的中温で既存井を改修する案件では、水または有機媒体による直接発電が検討対象となる。超臨界CO₂をクローズドループに採用する場合は、自然循環による補機動力削減の可能性だけでなく、長尺坑井での熱性能、高圧シール、停止・減圧手順を実証する必要がある。超高温岩体と蓄熱設備を一体化する案件ではモルテンソルトに理論的な魅力があるが、停止・再起動を含む運転信頼性を先に確認しなければならない。資源温度の評価段階から、流体、坑井、発電サイクル、安全設備を一つのシステムとして最適化する必要がある。
事業評価では、地下から取り出した熱量だけでなく、送電端・需要端で使えるエネルギーを比べるべきである。水系で大流量をポンプ循環すれば熱出力が増えても補機動力が膨らむ。CO₂や有機媒体で自然循環が成立しても、高圧機器や防爆対策の費用が増える可能性がある。モルテンソルトでは高温熱と蓄熱価値を得られる反面、保温・予熱に要する待機電力と、異常停止時の復旧費を織り込む必要がある。したがって比較指標は、坑口熱出力ではなく、年間正味発電量または有効熱供給量、設備利用率、停止損失、保守費、廃坑費まで含むライフサイクルコストとするのが妥当である。
日本で初期案件を形成するなら、既存データが豊富で地域理解の得られている地熱地域の未利用井を使い、同軸二重管と水系流体で長期挙動を検証するルートが比較的現実的である。次の段階では、有機媒体による直接発電や、超臨界CO₂を密閉流路内で用いた場合の自然循環、高圧機器、長期シール性能を個別に比較する必要がある。超臨界CO₂については、知見の多くがCO₂-EGSに由来するため、クローズドループへの適用性を別途検証しなければならない。さらに高温材料と掘削技術の成熟を待って、マルチラテラルやモルテンソルトへ展開する。技術を一足飛びに選ぶのではなく、坑井再利用、小規模熱供給、発電併設、大規模新設という段階ごとに、失敗時の損失を限定しながら学習曲線を形成する発想が必要となる。
クローズドループは、地熱開発を「地下流体を探し当てる事業」から「地下熱交換器を設計・建設する事業」へ転換し得る。温泉資源への影響を回避しやすいことは、日本にとって大きな価値である。しかし、環境面の利点が、そのまま発電原価の競争力を意味するわけではない。Eavorのマルチラテラル、XGSの熱伝導材料、GreenFireの既存井活用は、それぞれ熱交換面積、熱流束、資産再利用という異なる課題への解答である。日本市場で問われるのは、海外技術の優劣を一律に決めることではなく、地温勾配、岩盤熱伝導率、敷地、既存井、熱需要、温泉との位置関係を踏まえて最適な方式を選び、長期の熱低下を含めて事業性を検証する能力である。
参考文献
- 資源エネルギー庁「日本におけるクローズド方式地熱発電技術の取組みと課題」次世代型地熱推進官民協議会資料5、2024年。資料
- 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「クローズド方式の地熱発電計画策定調査 報告書(令和6年1月修正版)」2023年8月。報告書掲載ページ
- 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「次世代型地熱技術の開発」グリーンイノベーション基金、2026年。プロジェクト概要
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- Eavor GmbH, “Project Geretsried.” プロジェクト公式ページ
- XGS Energy, “XGS provides Clean, Round-the-Clock Energy Everywhere, Forever.” 公式技術概要
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- Higgins, B., Muir, J., Scherer, J., and Amaya, A., “GreenFire Energy Closed-Loop Geothermal Demonstration at the Coso Geothermal Field,” GRC Transactions, Vol. 43, 2019. 論文
- Amaya, A., Scherer, J., Muir, J., Patel, M., and Higgins, B., “GreenFire Energy Closed-Loop Geothermal Demonstration Using Supercritical Carbon Dioxide as Working Fluid,” Proceedings of the 45th Workshop on Geothermal Reservoir Engineering, Stanford University, 2020. 論文
- California Energy Commission, Closed-Loop Geothermal Demonstration Project: Confirming Models for Large-Scale, Closed-Loop Geothermal Projects in California, CEC-300-2020-007, 2020. 最終報告書
- 東洋エンジニアリング株式会社「米国GreenFire Energy社と次世代型地熱システムの共同展開に関する協業契約を締結」2025年9月9日。発表資料
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- McBay, D. A. et al., “Molten-Salt Closed-Loop Geothermal Systems for Super-Hot Rock Resources: Thermal Drawdown Mitigation and Dispatchable Power Through Thermal Buffering,” Proceedings of the 51st Workshop on Geothermal Reservoir Engineering, Stanford University, 2026. 論文
- Tangirala, S. K. and Vilarrasa, V., “On the limitations of closed-loop geothermal systems for electricity generation,” Communications Engineering, 2025. 論文
- JOGMEC, “On the utilisation of Super-critical Carbon Dioxide (ScCO2) in the geothermal power generation,” 2021. 技術資料

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